お侍様 小劇場
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    “蛍の子供” 〜寵猫抄より


      



今年の暑さもまた尋常ではなくて、
地球温暖化の影響もあろうが、
それ以上に問題となっているのが
“ヒートアイランド現象”という
都市部の温熱化がもたらした高温だとか。
エアコンの室外機や巨大な電算機の排熱や、
コンクリートの建物やアスファルトの照り返しなどが放つ高温が、
都市部の気温を押し上げており。
しかもしかも、
急な気温の上昇は巨大な積乱雲も生むものだから、ゲリラ豪雨も多発。
突然の、しかも想定外な大雨は、
セメントの街へ落ちたとて逃げ場がないため、
排水が思うように運ばぬまま、
街はあっと言う間に水没してしまうのだそうで。

 「こうなって来ると、暑さも大雨も人災かもしれないねぇ。」
 「にゃ?」

無邪気な仔猫さんたちが くうすうとお昼寝に入っていたがため。
起こさないよう、でもでも少しでも涼しいようにと、
ウチワをそろそろと使ってやりつつ、
こそり新聞を読んでいた七郎次であり。
フローリングの床へと広げて、
そおっとそおっとめくっていたのだが、
気を遣ったつもりでも気配は届いたものか。
それとも、もう寝足りたからと起き出したのか。
小声でついつい洩らした感慨へ、
正に“お返事”という間合いで声がして。
ありゃ?とお顔を上げれば、
読んでいた右半分の反対側、左半分の紙面へころんちょと。
浅い色合いの半袖半パンといういで立ちした坊やが、
いつの間にやら進軍して来ておいで。
すぐ傍らからとはいえ、ころころと転がって来た結果だろう、
体の向きが逆様なまま、そのお首を仰のけにしてという、
ややこしい見上げようになっておっ母様を見やっており。
金の髪をすべりこぼしての おでこ全開にする格好、
喉元があらわになるほどに小さな顎を天へ向け、
随分な無理をしてないかと思わせる、その身のよじりようなのへ、

 「ありゃりゃあ…。」

そんなしてて首が痛くないか?と、
手を延べ、小さな頭を掬い上げてやれば、
そのままパタンと寝返りを打った久蔵坊やの、
ふにふにとやわらかい頬が手のひらへ触れ。
まだちょっと眠いか、
そのまま…ひしゃげてしまうのも惜しまず
うにうに頬擦りしてくる、
何とも稚い仕草の愛らしさ。

 「〜〜〜〜〜〜。////////」

  ああああああああ
  あたたかいしやわらかいし
  それにそれに、なんて かよわいちからか
  ちいさいからか はねみたいにかるくって
  だからこそ
  らんぼうにしちゃいけないし
  てをひっこめたら ゆかへ ごんっておちないか
  そんなかわいそうなこと
  できやしないんだもの
  しょうがないじゃないか

 「うむ、判った。」
 「はい?」

背後から聞こえた家人のお声へ肩越しに振り向けば、

 「茶は自分で淹れるから、
  もちっと堪能しておいで。」

 「あ、あ、勘兵衛様っ!」

  ああああ、どうしようっ
  手は離せないけど、
  そんなことを勘兵衛様にさせる訳には行かないし。

その胸のうちで、
立った方がいいものか、でもでもと依然として迷っておれば。
そわそわ見やった御主様、
後ろ姿なまま、肩の上にて大きめの手を振って見せ、

 「大丈夫だ。
  この前のように、
  湯でもどって急須からあふれるほども茶葉は入れまいよ。」

 「あうう〜〜〜。」

  ……もしかして拗ねてますか? 勘兵衛様。
  え? 違う?
  そのくらいは出来ないと、
  先々で シチに苦労かける?
  そんなぁ〜〜。///////

仲善きことは 美しき哉 ですねvv
善哉、善哉vv


  「こらっ。///////」




      ◇◇



相変わらずの仲良し親子…と言ってていいものか。
少なくとも、

 「にゃう・まうvv」
 「みぃ・にゃ?」

小さな久蔵坊やがもっと小さい仔猫さんをお膝へ抱え上げたり、
逆に黒猫仔猫さんが、
久蔵お兄ちゃんに頬擦りして甘い声を出してたりし。
そんなしてじゃれ合っているのを、
二人とも見守るべく、視野(フレーム)を広くとる必要からか、
ほんの少々 間合いが離れたことになったもんだから。
両手が空いてるのをいいことに、
しばらくほどは収まっていた口許への拳、
惚れてまうやろが復活していたおっ母様だったりもし。
そしてそして、
仔猫さんたちが乗り上がってた新聞を、
無事なうちに返してもらい。
小さい字にはついつい掛けている眼鏡をちょいと持ち上げたその拍子、

 「???」

丸っこいフレームの眼鏡をかけていても、
理知の冴えは薄れぬ勘兵衛様の精悍な横顔へ。
お膝へ二匹を抱えたまんま、
ぼ〜〜っと見ほれていたらしい七郎次さんだったのへ、
こっちからも気がついた島谷せんせえが、

 「ほれ、ちびがお腹が減ったと。」
 「え? ありゃりゃあ。//////」

抱えられたクロちゃんが、
シチ母さんの胸元、
小さなお手々で押しているのへのお言いようへ、

 “勘兵衛様でなかったら
  それってセクハラ発言だと言ってやってるトコですが。/////”

そんなつもりもないくせにという意味合いも含めての、
色々と微妙なことを思いつつ。

 「さぁさ、それじゃあお茶にしましょうか。」

久蔵お兄ちゃんへ金の髪をちょいと撫でてやってから、
見ててやってねと ちびさんを手渡し、
そろりとその場から立ち上がった七郎次。

 「にゃう・みぃvv」

両手で預かった弟分をよしよしと撫でてやる仕草も、
さすがにそろそろ様になって来た久蔵は、
お顔を上げて来てのにぃにぃと、
糸のように細いお声を上げるおちびさんに、
時々 うりうりうり…と
不器用ながらも頬擦りを敢行しているところは、

 “まだ目撃しておらんのだろか。”

そうだったなら後で見せてやらねばと、
お耳を潰しかねないほどの うりうりなの、
こそりと携帯の動画で収録しつつ。
こんな格好でこういうことに慣れようとはと、
こちらも自身の進歩というか変化というかへ、
苦笑が絶えない、おヒゲの勘兵衛せんせえだったりするのである。





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